市販のマウスピース矯正の効果は？矯正歯科との違いや注意点を解説

「安く手軽に歯並びを治したい」と考えて、市販のマウスピースを使ってみようと思っている方もいるのではないでしょうか。

しかし、ドラッグストアやインターネットで手に入るマウスピースは、一見すると矯正にも使えそうですが、実は矯正を目的として作られたものではありません。

間違った使い方をすると、歯並びの悪化や思わぬ健康トラブルにつながることもあります。

この記事では、「市販のマウスピースで歯並び矯正ができるのか？」という疑問に対し、歯科医師の視点からリスクと正しい選択について解説します。

矯正歯科治療は公的健康保険適用外の自費（自由）診療です。
一般的な治療期間：2年から3年、一般的な通院回数：20回～30回
矯正歯科治療の一般的なリスクと副作用：痛み ・口腔内不潔域の拡大と自浄作用の低下・歯根への影響（歯根の短小、歯の失活、歯肉退縮、歯根露出、失活歯の歯根破折）・顎関節症状・後戻り·加齢による変化・骨癒着

【結論】市販のマウスピースで歯並びを整えることは難しい

残念ながら、インターネットやドラッグストアで手軽に購入できる市販のマウスピースで歯並びを矯正することはできません。

まず理解しておきたいのは、市販のマウスピースの多くは、矯正器具ではなく「ナイトガード」や「スポーツマウスガード」として販売されていることです。

歯ぎしりや食いしばりから歯を守る目的で作られており、歯を動かすための構造や力は備わっていません。

矯正歯科で行うマウスピース矯正では、全体矯正で約50枚のマウスピースを1〜2週間で交換しながら少しずつ歯並びを整えていきます。

それに対し「口元のケア」をうたった市販のマウスピースでよくあるのは、3枚セットを段階的に使うというものです。

たった数枚のマウスピースで、歯に負担をかけずに理想的な歯並びに導くのはほぼ不可能です。

市販のマウスピース矯正はどんなときに使うものなの？

市販のマウスピースは医療機器ではなく、歯の移動を目的としない保護具（スポーツ用マウスガードや歯ぎしり用ナイトガードなど）として発売されています。

歯科医院のものに比べ、耐久性やフィット感が劣りますが、歯ぎしりが軽い方や装着感を試してみたい方が一時的に使うのには向いています。

市販品は大きく分けると2種類で、お湯で柔らかくして自分の歯に合わせる「成型タイプ」とそのままはめる「既製タイプ」があります。

成型タイプは、今の歯並びそのままのものができるため、装着しても歯列が変わることはありません。

歯並びを変えるためには、今と少しだけ違う歯並びのマウスピースをはめる必要があり、その設計は市販品では不可能です。

一方、既製タイプは、自分の歯にぴったり合っているわけではないため、装着すると歯に圧力がかかります。

その結果、多少歯の傾きが変わることもありますが、逆に悪い方向に動くこともあり、安全に使えるとは言いきれません。

歯ぎしり対策での使用であっても、歯科医師の診断なしで市販品を長期間使うことは、噛み合わせや顎関節に負担をかけるリスクがあります。

市販のマウスピースを矯正目的で使用するリスク

市販のマウスピースは、歯並びの改善が望めないだけでなく、使い続けることで次のようなリスクをともなうことがあります。

・噛み合わせや歯並びが悪化する可能性がある
・歯を支える骨や歯肉に負担がかかる
・後戻りしやすく効果が長続きしない
・余計な費用がかかる可能性がある

これらのリスクについて、以下で詳しく説明します。

噛み合わせや歯並びが悪化する可能性がある

市販のマウスピースは、多くの方にフィットするように平均的な歯並びをもとに作られています。

一見すると誰にでも合うように見えますが、実際は、市販品が自分の歯並びにぴったり合う人はほとんどいません。

合わないマウスピースを無理に装着し続けることで、一部の歯に強い力がかかり、本来動かしたくない歯が動いてしまうことがあります。

その結果、歯の位置がずれて、噛み合わせまで悪化することがあるのです。

噛み合わせの悪さは歯の寿命を縮めるだけでなく、頭痛や肩こりなど、健康にも影響を与えることがあります。

歯を支える骨や歯肉に負担がかかる

無計画に歯に力をかけ続けると、歯槽骨（歯を支える骨）が減り、歯肉が下がって歯がしみたり、歯のグラつきを引き起こしたりすることがあります。

矯正歯科で行うマウスピース矯正では、歯科医師が細かく計算した力（1枚あたり約0.25mmの移動）で、安全に歯を動かします。

市販品の口コミで「歯が痛くなった」というものもありますが、この状態は歯に必要以上の力がかかっているサインです。

「歯が動いている証拠」などと自己判断せず、痛みの原因を歯科医院で確認してもらう必要があります。

後戻りしやすく効果が長続きしない

仮に、市販のマウスピースを装着して「歯並びが少しよくなったかも」と感じたとしても、その効果を長続きさせるのは難しいでしょう。

歯は、矯正によって動かしたあとも、もとの歯並びに戻ろうとする性質があるためです。

そのため、矯正歯科治療では歯並びを整えたあとにも、保定装置という後戻り防止装置を約2年間装着します。

一方、市販のマウスピースは、後戻り防止を目的として設計されておらず、矯正後の歯並びを安定させるには不向きな構造です。

後戻り防止装置を使わなければ、元の歯並びに戻ってしまうか、さらに悪化してしまう可能性があるのです。

余計な費用がかかる可能性がある

市販のマウスピースによって歯並びや噛み合わせがずれた場合には、歯科医院での治療が必要です。

もとの歯並びや噛み合わせより状態が悪くなっていれば、その分治療が複雑になり、費用が上がるケースもあります。

また、噛み合わせのずれから顎関節症などを引き起こし、さらに治療費がかさんでしまう事態にもなりかねません。

費用を抑えるために市販品を購入したはずが、結果的に高い買い物になるリスクがあることを覚えておきましょう。

「歯ぎしり防止用」と「矯正用」はまったく別物！市販品と矯正用マウスピースの違い

市販品と矯正歯科で行うマウスピース矯正では、安全性やオーダーメイドの治療かどうかという点で大きな違いがあります。

市販品は矯正歯科のマウスピース矯正と比べて、次のような違いがあります。

・専門的な検査があるかの違い
・治療のゴールを見られるかの違い
・自分の歯に合わせた設計かの違い
・歯を動かすのに向いている素材かの違い
・経過観察があるかの違い

市販品の問題点や矯正歯科で行うマウスピース矯正との違いを、以下で詳しく解説します。

専門的な検査があるかの違い

市販のマウスピースは、購入すれば誰でもすぐに使えますが、歯の状態や噛み合わせを事前に診断することはありません。

合っていないものを装着すれば、かえって噛み合わせに悪影響を及ぼすリスクがあります。

一方、矯正歯科のマウスピース矯正では、顎の骨や根っこの形や長さなど、表面的には見えない細かい部分まで詳しく検査してから行います。

矯正歯科で行う具体的な検査項目は、以下の通りです。

これらの細かな検査結果をもとに、歯並びや噛み合わせがずれた原因を見つけ、一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てます。

これほど細かな検査と診断をもとに進める治療だからこそ、市販のマウスピースとは安全性や結果に大きな差が出るのです。

治療ゴールの可視化があるかの違い

市販のマウスピースには、「この装置を使えばどんな歯並びになるのか？」という明確なゴールが提示されていません。

そもそも矯正用に設計されていないため、歯並びを整える効果は期待できませんが、見た目の変化を期待して使い続けてしまう方もいます。

一方、矯正歯科では、治療開始前に口腔内スキャナーで歯型をとり、歯の動きを3Dシミュレーション画像や映像で事前に確認することが可能です（※インビザラインの場合）。

治療を始める前に「どの歯がどう動いて、どんな歯並びになるのか」が具体的にわかるので、安心して治療にのぞめます。

このシミュレーションは、簡易的なものであれば精密検査の前でも作成可能で、多くの矯正歯科では初回相談で導入しています。

ブライフ矯正歯科でも、ご希望の方には初回相談時にシミュレーションを提示し、治療後のイメージをわかりやすくご説明しています。
初回相談から治療開始までの詳しい流れは、こちらの記事をご覧ください。

自分の歯に合わせた設計かの違い

市販のマウスピースは「誰にでも合うように作られた既製品」または「成型タイプ」で、フィット感に限界があります。

装着してもすぐ外れてしまったり、口内に違和感があったりするケースも少なくありません。

一方、矯正用のマウスピースは、スキャンや型取りによって一人ひとりにぴったり合わせたオーダーメイドになっています。

見た目の自然さや装着中の快適さがまったく違います。

歯を動かすのに向いている素材かの違い

多くの市販品には、比較的安価なEVA樹脂という素材が使われています。

この素材は、柔らかく変形しやすいため、歯に適度な力をかけ続けることが難しく、矯正効果を発揮できません。

一方で、矯正歯科のマウスピースは、安全性が高い医療用の特殊なプラスチック素材（ポリエステル系ポリウレタン）でできています。

わずか0.5mm程度の薄さで歯にぴったりとフィットする柔軟性と、長い時間形状を保てる耐久性があり、効率的に歯を動かせます。

安全で効果的な治療を行うためには、歯科医師による正確な診断と個別設計に加え、マウスピースそのものの質も重要です。

経過観察があるかの違い

矯正歯科でのマウスピース矯正は、歯科医師が定期的に（1〜3か月に一度）歯の状態や動き、フィット感を確認し、必要に応じて治療計画の修正をします。

最近ではアプリを使ってチェックを受けられる「デジタル・モニタリング」を導入する医院もあり、忙しい方でも自宅で経過を見てもらうことが可能です。

しかし、市販のマウスピースには、こうした経過観察の体制がありません。

専門的なチェックがないまま進めることは、トラブルのリスクを高めるだけでなく、不安を感じながら使いつづける原因にもなります。

歯を動かすという医療行為には、必ず専門家の経過観察が必要です。

ブライフ矯正歯科でも、インビザラインによるマウスピース矯正において、デンタル・モニタリングを導入しております。

詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

市販品や矯正歯科のマウスピース矯正についてよくある質問

これまで、市販のマウスピースでは歯の矯正効果は期待できず、矯正歯科でのマウスピース矯正とはまったく別ものだということをお伝えしてきました。

最後に、市販品や矯正歯科のマウスピース矯正についてのよくある質問にお答えします。

軽度のずれなら市販のマウスピースでも治せる？

市販品は、歯を動かす目的で設計されていないため、軽度のずれであっても、理想通りの歯並びになることはほぼありません。

軽度のずれなら、矯正歯科での部分矯正で比較的短期間、低コストで改善できる場合があります。

効果が期待できない市販品を使いつづけるよりは、矯正歯科で相談した方が早く悩みを解決できでしょう。

子どもの歯なら市販のマウスピースを使ってもいい？

矯正歯科で扱う子ども用マウスピース「プレオルソ」などの装置に似た商品がインターネットで購入できますが、代用はおすすめできません。

正規のプレオルソは3種類の形があり、専門知識を持った歯科医師が、その子どもに最適なタイプを選んでいます。

市販品は、素材やつくりも異なるうえに、選び分けができないため、かえって噛み合わせや顎の発達に悪影響を与える可能性があります。

また、マウスピースの効果を十分に引きだすためには、専門家が指導する、舌や口周りの筋肉を鍛えるトレーニング（MFT）を並行して行うことが重要です。

顎が柔らかく、歯列が変化しやすい貴重な時期だからこそ、価格だけで選ばず、歯科医師の診断のもと安全で効果的な治療を選びましょう。

矯正歯科のマウスピース矯正なら効果は確実？

矯正歯科のマウスピース矯正は、歯科医師の適切な診断・治療計画のもと正しく装着すれば、十分な効果が得られます。

ただし、計画通りの効果を得るためには自己管理が欠かせません。

特に、決められた装着時間（1日約20時間以上）を守れるかどうかが大きなポイントとなります。

マウスピース矯正は、歯科医師の診断・設計力と、毎日指示通りに装着を続けるご本人の努力、どちらもそろって初めて効果を得られる治療法です。

マウスピース矯正は市販で対応せず矯正歯科に相談しよう

安価で手軽に手に入る市販のマウスピースですが、そもそも矯正用として作られていないため、歯並びを整える効果は期待できません。

マウスピース矯正は、専門的な知識と技術を持った歯科医師が診断し、その方に合った治療計画に沿って行うからこそ効果を得られます。

一生使う大切な歯を守るためにも、安易に市販品で済ませようとせず、歯並びの悩みは矯正歯科に相談しましょう。

多くの矯正歯科では、初回相談を無料から数千円で受け付けています。

矯正歯科のマウスピースを実際に見て触ってみると、市販品との違いをすぐに実感できるはずです。

ブライフ矯正歯科では、精密な検査を行ったうえで、前歯のガタつき、八重歯、出っ歯などさまざまなケースのマウスピース矯正に対応しています。

まずはご自身の歯並びの状態を知るためだけでも、ぜひお気軽にご相談ください。