かわいらしい印象をもたれることもある八重歯ですが「笑ったときに目立つ」「歯磨きがしにくい」といった悩みを抱える方も少なくありません。
そんななか、目立つ装置に抵抗があり歯列矯正に踏み出せなかった方々にも選ばれているのが、マウスピース矯正です。
実際に、FNNプライムオンラインが若い世代(15〜29歳)を対象に行った「Z世代の歯科矯正に関する意識調査」では、矯正歯科治療を受けた人の6割が矯正装置にマウスピースを選んでおり、目立ちにくさや快適さを理由に支持を集めています。
そこで気になってくるのが、どの程度の八重歯ならマウスピース矯正で治せるのか、ということではないでしょうか。
この記事では、マウスピース矯正で治せる八重歯と難しい八重歯の違いや、治療方法、費用や期間の目安まで詳しく解説していきます。

ブライフ矯正歯科 院長
平塚 泰三(ひらつか たいぞう)
東京医科歯科大学歯学部歯学科を卒業後、1年間の研修医を経て東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野に入局。大学院を修了し歯学博士を取得。関東を中心に複数の歯科医院にて矯正担当医として勤務。2021年11月に静岡県静岡市にてブライフ矯正歯科を開業。正しい矯正歯科治療を適正な治療費で提供するように努めている。日本矯正歯科学会認定医。
矯正歯科治療は公的健康保険適用外の自費(自由)診療です。
一般的な治療期間:2年から3年、一般的な通院回数:20回~30回
矯正歯科治療の一般的なリスクと副作用:痛み ・口腔内不潔域の拡大と自浄作用の低下・歯根への影響(歯根の短小、歯の失活、歯肉退縮、歯根露出、失活歯の歯根破折)・顎関節症状・後戻り·加齢による変化・骨癒着
八重歯はマウスピース矯正で治療できる!ただし条件あり
近年、マウスピース矯正は治療技術や装置の精度が大きく向上し、以前は難しいとされていた複雑な歯の動きもコントロールできるようになりました。
その結果、八重歯の治療にもマウスピース矯正が選ばれるケースが増えています。
しかし、どのような八重歯でも対応できるわけではなく、治療できるかどうかにはいくつかのポイントがあります。
以下の3つに分けて詳しく見ていきましょう。
・マウスピース矯正で治せる八重歯
・マウスピース矯正が難しい八重歯
・マウスピース矯正が難しい場合の対応策
具体的な症例をもとに、解説していきます。
マウスピース矯正で治せる八重歯
以下のような状態であれば マウスピース矯正で十分きれいに整えることが可能です。
・八重歯の飛び出しやズレが軽度から中程度
・隣の歯との重なりが比較的少ない
・八重歯以外の歯並びが大きく乱れてない
このようなケースでは、歯を並べるためのスペースが確保しやすく、段階的に少しずつ歯を動かしていくマウスピース矯正の強みを最大限に活かせます。
八重歯の位置のズレや隣の歯との重なりが軽度であればあるほど、歯の移動距離が短くて済むため、治療期間も短くなる傾向です。
また、マウスピース矯正の前や後にワイヤー矯正を組み合わせることで、マウスピース単体では難しい歯並びにも対応できることもあります。
マウスピース矯正が難しい八重歯
一方で、以下のようなケースではマウスピース矯正だけでは対応が難しく、ワイヤー矯正や外科手術が必要な場合もあります。
・隣の歯との重なりや、歯の飛び出しが極端に大きい重度の八重歯
・八重歯に加え、他の歯もガタガタに並んでいる重度の叢生(そうせい)
・顎の骨格のズレも伴っているケース
隣の歯との重なりが7㎜以上あるような重度の叢生の場合、歯を大幅に移動して歯列におさめる必要があります。
歯を根元から大きく移動させる動きは、歯に直接装置を固定して強い力をかけ続けるワイヤー矯正の方が得意です。
また、顎の骨格の大きさや位置にも問題があるケースでは、矯正歯科治療だけでは根本的な解決が難しい場合があり、外科手術を検討することもあります。
マウスピース矯正ができない場合の対応策
マウスピース矯正では治せないと診断された場合でも、ワイヤー矯正であれば対応できるケースがほとんどです。
ワイヤー矯正は矯正力が強いため、歯を大きく移動させる必要のある重度の八重歯や、複雑な歯並びの治療にも向いています。
見た目が気になる方は、ワイヤーを裏側につける裏側矯正を選んだり、表側でも白や透明の装置を使ったりすることで改善可能です。
また、マウスピース矯正が可能かどうかは、歯科医師の治療方針や経験、導入しているマウスピースの種類によっても判断が分かれます。
そのため、1つの歯科医院の意見だけで諦めず、何件か相談に行って検討することが大切です。
【ケース別】マウスピース矯正で八重歯を治す方法
八重歯になってしまう主な原因は、歯の大きさに対して顎が小さく、歯が並ぶスペースが足りないことです。
歯の生え変わりで最後に出てくることの多い犬歯が、生えるすき間がなく行き場を失った状態が「八重歯」です。
そのため、八重歯を歯列に収めるためのスペースをどうやってつくりだすかが、治療方針を決める大きなポイントになります。
スペースを確保する方法は大きく分けて「抜歯せずに治療するケース」と「抜歯が必要なケース」があり、治療法が異なります。
それぞれ具体的な方法を見ていきましょう。
抜歯せずに治療するケース
マウスピース矯正で、抜歯をせずにスペースを確保するには以下の3つの方法があります。
・歯の側面を削る(IPR)
・奥歯を後ろ側に移動させる
・歯列の幅を広げる
それぞれの治療法を詳しく説明します。
歯の側面を削る(IPR)
IPRとは、歯と歯の間の接触面をほんの少し、ヤスリをかけるように削ってスペースをつくる方法です。
削るのは、歯の神経が通っていないエナメル質のごく一部分に限られます。
エナメル質は通常2〜3㎜ありますが、IPRで削る量は片面で最大0.25㎜程度、両面合わせても0.5㎜程度のため、痛みが出ることはまれです。
また、IPRが原因で虫歯になりやすくなったという研究報告はなく、安心して受けられる処置として広く行われています。
ごく軽度の歯の重なりなら、IPRを数本の歯に行うだけで必要なスペースを確保でき、歯並びをきれいに整えられることもあります。
奥歯を後ろ側に移動させる
歯列全体を後方に動かしてスペースをつくりだす方法は、マウスピース矯正が得意とする動きです。
まず、1番奥の歯をさらに後ろに動かし、次にその手前の歯をできたスペースに移動させます。
このように、歯を1本ずつ順番に後方へ動かすことで、八重歯を収めるためのすき間をつくることができます。
ただし、どこまででも後ろに動かせるわけではなく、顎の骨がある範囲までが限界です。
骨の量には個人差がありますが、一般的には片側で2.5㎜程度、左右で5㎜程度のスペース確保が可能とされています。
参考までに、矯正歯科治療で抜歯することの多い小臼歯1本の幅は約7㎜なので、この方法だけで抜歯1本分のスペースをまかなうのは、難しいということになります。
なお、奥歯を後ろに動かすためには、親知らずがある方は抜歯が必要です。
歯列の幅を広げる
歯列の幅を広げる方法は、もともとの歯列がV字型のように狭まっている場合に、特に効果的です。
内側に倒れ込んでいる歯をまっすぐに起こしながら、歯列のアーチを理想的なU字型に広げていくことでスペースを確保します。
歯列を広げられる範囲は、顎の骨の厚さなどの個人差が大きいため、CT撮影で骨の状態を詳細に確認することが重要です。
頬側の骨の厚みが不十分な状態で歯列を広げすぎると、歯根の一部が骨からはみ出してしまうリスクがあります。
そのため、全ての方に適用できる方法ではなく、CT検査の結果しだいで抜歯など別の方法を検討する場合もあります。
抜歯が必要なケース
上記のような抜歯をしない方法では、十分なスペースを確保できないと判断された場合に、はじめて抜歯を検討します。
抜歯をすることで大きなスペースができ、重度の八重歯やガタガタの歯並びでも理想の位置に並べやすくなります。
抜くのは多くの場合、前から4番目または5番目の歯で、八重歯(犬歯)は基本的には抜きません。
犬歯は、根が長くしっかりしており、歯ぎしりなど横方向からの強い力を受け止める大切な役割があるためです。
どの歯を何本抜くかは、歯の状態や治療計画によって異なり、歯科医師の中でも意見が違うこともあるため、納得できるまで説明してもらうことが大切です。
八重歯のマウスピース矯正にかかる費用
矯正歯科治療を考えるうえで、多くの方が気にされているのが費用面です。
実際に、スマイルモア矯正が行った、全国の20代女性を対象にした「20代女性限定_矯正を考えたことあるかのアンケート」では、歯列矯正を検討するうえで「費用やコストが気になる」が最も多い回答でした。
マウスピース矯正は自由診療のため、歯科医院によって料金設定が異なりますが、相場を知っておくことで、適正な価格かどうかを判断しやすくなります。
ここでは、費用の目安と負担を軽減するための方法を解説します。
費用の目安
費用は、八重歯や出っ歯といった歯並びのタイプで決まるわけではなく、ガタつきやズレの程度(軽度〜重度)で決まります。
部分的に整える「部分矯正」と全体的に動かす「全体矯正」の費用の目安は以下の通りです。
・部分矯正:10万〜60万円程度(軽度の八重歯)
・全体矯正:70万〜120万円程度(中程度〜重度の八重歯)
八重歯の治療は、八重歯だけを動かすのではなく、噛み合わせや全体のバランスを整えて治す場合が多いため、ほとんどのケースで全体矯正が必要です。
また、上記の基本料金のほかに、以下の費用が別途必要になる場合があります。
項目 |
費用の目安 |
備考 |
---|---|---|
初回相談料 |
無料〜5,000円程度 | 項目は各医院によって異なる |
精密検査・診断料 |
1万〜5万円程度 | レントゲン、歯型とり、写真撮影など |
抜歯費用 |
5,000〜15,000円程度/1本 | 歯列矯正のための抜歯は自費 |
調整料・観察料 |
5,000円程度/1回 | 1〜3か月ごとの通院にかかる費用 |
保定装置代 |
1〜6万円程度 | 治療後の後戻り防止装置の費用 |
「トータルフィーシステム(総額提示制度)」を採用している歯科医院では、基本料金のなかに調整料や追加費用が含まれる場合が多いです。
料金体系については、契約前に必ず歯科医院に確認しましょう。
なお、ブライフ矯正歯科の料金表はこちらをご覧ください。
費用の負担を軽減する方法
高額になりがちな矯正費用ですが、以下のような制度を利用することで、負担を軽減できる可能性があります。
費用の負担を軽減する方法 |
詳細 |
---|---|
医療費控除 |
・所得税の一部が戻ってくる制度 ・見た目の改善だけでなく、噛み合わせの改善など、機能的な問題を解決するための矯正歯科治療は、医療費控除の対象となる場合がある |
デンタルローン |
・歯科治療専門のローンで、ローン会社が治療費を立て替え、患者さんは分割で返済していく制度 ・比較的低い金利で、長期間の分割払いが可能な場合がある |
院内分割払い |
・歯科医院が独自に設けている分割払い制度 ・金利がかからない場合が多いが、分割回数に制限がある |
ブライフ矯正歯科では、患者様のご負担をできる限り軽減できるよう、デンタルローンをご用意しています。
デンタルローンは実質年率3.8〜3.9%、最大84〜120回の分割払いが可能です。
月々のお支払いは3,000円から設定できます。
無理のない支払いプランで、安心して矯正歯科治療を始めていただけます。
八重歯の治療にマウスピース矯正を選択するメリット・デメリット
マウスピース矯正には、多くの魅力がありますが、注意すべき点もあります。
治療を始めてから後悔しないよう、メリット・デメリットの両方を理解しておきましょう。
マウスピース矯正のメリット
マウスピース矯正のメリットとして、以下の点が挙げられます。
マウスピース矯正のメリット |
詳細 |
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目立ちにくく見た目のストレスが少ない |
薄く透明なマウスピースで目立たないため、人前に立つ仕事や接客業の方でも安心して使える |
自分で取り外しができる |
・食事のときは、マウスピースを外して普段通りに食べることができる ・ワイヤー矯正のように食べ物が装置につまるストレスがない |
治療後の歯並びを事前にシミュレーションできる |
・口腔内スキャナーで現在の歯の状態を読み込み、治療後のイメージを3D画像で確認できる ・事前に確認できることで、モチベーションの維持にもつながる |
痛みが比較的少ない |
マウスピース1枚ごとに少しずつ歯を動かすため、強い力が一気にかからず、ワイヤー矯正に比べると痛みがでにくい |
通院回数が少なめ |
治療計画に沿って自分でマウスピースの交換を行っていくため、問題がなければ2〜3か月に1度の通院で済む場合が多い |
金属アレルギーのリスクがない |
ワイヤー矯正と異なり金属を全く使用しないため、金属アレルギーの方でも安心 |
マウスピース矯正のデメリット
一方で、マウスピース矯正にはデメリットもあります。
後から後悔しないために、事前に確認しておきましょう。
マウスピース矯正のデメリット |
詳細 |
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装着時間を守らないと効果がでにくい |
1日20時間以上の装着ができないと、治療が長引いたり、計画通りに進まなくなる可能性がある |
装着したまま飲食できない(水はOK) |
食事や間食のたびにマウスピースの取り外しと歯磨きが必要なため、特に外出先ではわずらわしさを感じる方もいる |
毎日のメンテナンスが必要 |
マウスピースのお手入れを怠ると、匂いや汚れ、変色の原因になることもあるため、1日に数回洗い清潔に保つ必要がある |
ワイヤー矯正が歯科医師主導で治療が進むのに対し、マウスピース矯正は歯科医師と患者さんが二人三脚で進める治療です。
デメリットに挙げたように、自己管理ができない場合は計画通りに治らない場合があることを覚えておきましょう。
八重歯のマウスピース矯正で後悔しないために
八重歯の治療が満足いく結果につながるよう、治療を決める前に知っておきたい大切なポイントが2つあります。
・安さだけで選ばない
・マウスピース矯正だけにこだわらない
以下で具体的なポイントをそれぞれ詳しく解説します。
安さだけで選ばない
インターネットで見かける格安のマウスピース矯正は、前歯だけを動かす「部分矯正」であることがほとんどです。
八重歯の治療は、奥歯を含めた全体を動かす「全体矯正」が必要なケースが大半を占めます。
安さだけで選んだ結果「八重歯は少し動いたけど噛み合わせがおかしい」「治療が長引き追加費用がかかった」といったトラブルにつながることも少なくありません。
歯科医院を選ぶ際は、歯科医師の経験や症例数、説明の丁寧さなどを総合的に判断することが大切です。
技術力のある歯科医師ほど、無理な値下げはせず、適正な価格で質の高い治療を行っています。
マウスピースだけにこだわりすぎない
マウスピース矯正は、目立たずに治療でき、歯への負担も少ない魅力的な治療法です。
しかし、八重歯の状態によっては、ワイヤー矯正の方がより確実な結果を得られる場合もあります。
重要なのは、自分にとって最適な治療法で納得いく結果を得ることです。
また「マウスピース矯正で治せないならこのまま八重歯を残しておこう」と放置してしまうと、将来、歯の健康にも影響が出ることがあります。
磨き残しによる虫歯・歯周病のリスクのほか、犬歯が機能しないことで奥歯に負担がかかり、歯が割れたりすり減ったりするリスクもあります。
見た目だけでなく、大切な歯を守るためにも一度矯正歯科で相談してみると安心です。
八重歯のマウスピース矯正についてのよくある質問
最後に、マウスピース矯正で八重歯の治療を検討している方からよくいただくご質問にお答えします。
八重歯のマウスピース矯正の期間はどのくらいですか?
八重歯の状態によって大きく異なりますが、目安は以下の通りです。
・軽度の八重歯:数か月〜1年程度
・中度〜重度の八重歯:2〜3年程度
上記は、歯並びが整うまでの期間の目安です。
この治療が終わった後、動かした歯が後戻りするのを防ぐために保定装置(リテーナー)を装着する「保定期間」が必ず必要になります。
保定期間は、一般的には2年程度とされていますが、保定装置の装着は長ければ長いほど歯並びが安定します。
八重歯をマウスピース矯正で治す場合、痛みはありますか?
マウスピース矯正は、歯に負担をかけない力をコンピューター上で細かく計算し、少しずつ動かしていくため、ワイヤー矯正に比べると痛みは少ないといわれています。
新しいマウスピースに交換した直後の2〜3日は、歯が締め付けられるような痛みが出ることがありますが徐々に慣れていきます。
マウスピースがはめられないほどの痛みが出ることはまれです。
八重歯のマウスピース矯正は何歳までできますか?
マウスピース矯正ができるかどうかは、動かす歯の周りに十分な骨があるかが重要で、一般的には年齢制限はないとされています。
マウスピース矯正は、少しずつゆっくり動かしていく治療で、歯や歯茎への負担を最小限におさえられるため、年を重ねた方の矯正治療にも向いています。
とはいえ、年齢が上がるにつれて顎の骨が減ってくるのは事実ですので、できるだけ早めに始めるのが理想です。
八重歯でお悩みの方は矯正歯科で相談を
以前はマウスピース矯正で難しいとされていた八重歯も、治療実績を重ねることにより対応できるケースが増えてきました。
八重歯を整えると、笑顔の印象がぐっと明るくなり、就職活動や接客などの大切な場面でも、好印象を与えやすくなります。
また、歯並びが整い歯に汚れがたまりにくくなることで、虫歯や歯周病のリスクが抑えられ、将来、健康な歯を多く残せる可能性も高まります。
ただし、マウスピース矯正で治せるかどうかは、八重歯の状態のほか、歯科医師の方針や経験によっても判断が異なるため、一概にはいえません。
まずは矯正歯科で相談し、自分に合った方法を見つけていきましょう。
静岡市のブライフ矯正歯科では、丁寧なカウンセリングを大切にし、一人ひとりの歯並びやご希望に合わせた最適なプランをご提案しています。
マウスピース矯正の治療実績も豊富で、これまでにも八重歯にお悩みの方々の治療を数多く行ってきました。
ご相談のみでも受け付けておりますので、まずはお気軽にお越しください。